ゾディアックは警察官である
情報源の特定に関する前章の検証を通じ、ゾディアックの手紙に提示された司法解剖鑑識鑑定書および鑑識実況見分調書の精密なデータは、暗闇の現場にいた実行犯の主観的記憶からは決して生成され得ず、警察組織内部の公的捜査資料そのものに直接アクセスし得た人物によってのみ取得可能であったことが実証された。手紙の差出人が警察官であるという事実が論理的かつ科学的に確立された以上、次に解明すべき課題は、彼がいかなる行政機関および警察組織に所属していたかという構造的所在の特定である。1960年代後半のアメリカにおける警察組織の制度的枠組み、管轄権の厳格な分割、および行政文書のアクセス制限に関する法規と実務を冷徹に精査することにより、彼が所属していた具体的な警察機構の特定を試みる。
所属警察署の特定
事件の発生地点および捜査の権限分配を検証するにあたり、ゾディアックが最初期に手紙で未公開データを提示した二つの連続襲撃事件における管轄警察署の物理的・制度的配置を確認する。 第一の事件であるレイク・ハーマン・ロード事件は、1968年12月20日に発生した。現場となったレイク・ハーマン・ロード沿いの地域は、特定の市自治体に属さない自治体未組み込み地域であり、行政および治安維持の管轄権はソラノ郡保安官事務所に単独で帰属していた。したがって、この事件の初動捜査、現場検証、鑑識作業、および司法解剖の立ち合いと報告書の作成は、すべてソラノ郡保安官事務所の捜査員および鑑識官によって直接的に執行・管理された。

第二の事件であるブルー・ロック・スプリングス事件は、1969年7月4日に発生した。現場となったブルー・ロック・スプリングス公園の駐車場はヴァレーホ市の行政区域内に位置しており、その治安管轄権はヴァレーホ市警察に帰属していた。この事件においては、ヴァレーホ市警察が主導して現場検証を行い、生存者であるマイク・マゴーからの聴取、現場に残された薬莢や車両の鑑識作業、および司法解剖手続きの管理を担当した。
ここで生じる根本的な問いは、ゾディアックという単一の情報保持者が、これら異なる二つの治安機関によって個別に作成・管理されていた最高度機密文書、すなわち双方の事件における司法解剖鑑識鑑定書および実況見分調書の双方に対し、いかにして同時にかつ完全にアクセスし得たかという点である。1960年代当時の警察組織における情報セキュリティ制度および管轄権の独立性を照らし合わせたとき、サンフランシスコ市警察(SFPD)やナパ郡保安官事務所、オークランド市警察といった第三の警察機関に所属する一般の警察官が、これらソラノ郡内の未公開捜査ファイルにアクセスすることは制度上完全に不可能であった。
アメリカの治安維持機構は連邦制の下で高度に分散化されており、自治体警察(市警察)と郡警察(保安官事務所)は相互に完全に独立した別個の行政法人として機能している。他の都市や郡の警察官は、自らの管轄外で発生した他署の未解決事件に関して、公的な捜査上の正当な権限や要請がない限り、他署の内部資料庫や鍵付きの捜査ファイルに立ち入る法的な権限も物理的な機会も持ち合わせていない。
保安官事務所と市警察の違いと関係性

ゾディアックが双方の事件の未公開資料へアクセスできたメカニズムを解明するためには、郡保安官事務所と市警察という二つの機構の制度的相違と、地理的・実務的な連携構造を精査する必要がある。 郡保安官事務所は、郡全体という広域な行政区域を管轄し、主に自治体未組み込み地域の治安維持、地方裁判所の保安、および郡刑務所の管理を担当する機関である。これに対し、市警察(Police Department)は、特定の法人の市境界内部における治安維持および犯罪捜査を専門に担う自治体機関である。権限の広がりと組織の性質において両者は明確に区別されており、原則として日常の警察業務や組織管理は完全に独立して運用されている。 しかし、広域的・連続的な重大犯罪が発生した場合には、これらの独立した機関同士の間で独自の捜査協力・情報交換の枠組みが構築される。1968年12月にソラノ郡保安官事務所の管轄下でレイク・ハーマン・ロード事件が発生した際、現場はヴァレーホ市の境界線に極めて近い郊外に位置していた。そのため、地域的な近接性から両機関の間では初動段階から情報共有の連絡体制が作られた。さらに、1969年7月にヴァレーホ市警察の管轄下でブルー・ロック・スプリングス事件が発生すると、襲撃の手口や地理的距離の近さから、両事件が同一の犯行である可能性が浮上した。
この事態を受け、ソラノ郡保安官事務所とヴァレーホ市警察は、相互の管轄権の壁を越えた合同捜査会議を設置し、捜査情報の相互交換を実施した。この公式な捜査協力の過程において、ソラノ郡保安官事務所が作成した「レイク・ハーマン・ロード事件の解剖鑑識鑑定書および現場写真」の謄本や複製ファイルが、ヴァレーホ市警察の捜査本部へと正式に移送・提供された。同時に、ヴァレーホ市警察自身が作成した「ブルー・ロック・スプリングス事件の実況見分調書、鑑識写真、およびマイク・マゴーの供述調書」もまた、同警察署内部の捜査ファイルとして同一の場所に一元化されて蓄積・保管されることとなった。 情報の伝達経路という観点からこの事態を分析すると、重要な事実が浮き彫りとなる。ソラノ郡保安官事務所に所属する一般の保安官代理は、自署の管轄であるレイク・ハーマン・ロード事件のファイルにはアクセスできたものの、他署であるヴァレーホ市警察が主導して管理していたブルー・ロック・スプリングス事件の現場鑑識や解剖の詳細データにまで日常的・包括的にアクセスする権限は制限されていた。これに対し、ヴァレーホ市警察内部の捜査本部に置かれた事件ファイル群には、自署が担当したブルー・ロック・スプリングス事件の全データに加え、ソラノ郡保安官事務所から情報開示を受けて提供されたレイク・ハーマン・ロード事件の完全な捜査資料の双方が、単一の物理的空間に統合された形で揃い踏みしていたのである。
ヴァレーホ市警察
唯一の解は、ヴァレーホ市警察である。なぜなら、二つの襲撃事件に関するすべての司法解剖鑑識鑑定書、鑑識現場写真、および弾道解析レポートが、完全な形で単一のファイル群として物理的に集積・保存されていた場所は、ヴァレーホ市警察の内部捜査本部以外に存在しなかったからである。 行政・法制度上の厳格な情報隔離原則に照らしたとき、サンフランシスコ市警察をはじめとする外部の警察署の勤務員は、1969年8月の段階でソラノ郡内の未公開事件データにアクセスする権限を完全に欠いていたため、情報源の候補から即座に除外される。また、ソラノ郡保安官事務所の勤務員に関しても、自署のデータは保持していたものの、ヴァレーホ市警察が独占的に管轄・作成した第二の事件の精密な鑑識レポートや解剖データを完全に手中に収める制度的地位にはなかった。

双方の事件の未公開データが交差し、同一の棚およびバインダーに一元的に整理・保管されていたのは、まさにヴァレーホ市警察の捜査資料室および捜査本部であった。この警察署に所属していた警察官のみが、勤務中あるいは非番の時間を利用し、両事件の解剖鑑識鑑定書を同時に閲覧し、そこに記載されていた「体内の斜めの貫通角度」「車体金属の貫通」「銃口の高さと入射角」といった極秘の数値を手紙の文章へと正確に転記することが可能であった。 したがって、第1通目および第2通目の手紙において示された高度な法医学・鑑識データを情報源として所有し、それを外部へ出力し得た人物の行政的・物理的所在は、ヴァレーホ市警察に勤務していた警察官に唯一特定される。管轄権の境界、公文書の保管実態、および治安機関相互の情報開示のフローを冷徹に検証した結果導き出されるこの帰結は、ゾディアック事件の正体を解明する上でいかなる反論も許さない絶対的な組織的ファクトである。
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