「ゾディアック事件」解体新書File14

Japenese

第四の事件

事件の概要

1969年10月11日土曜日の午後9時55分頃、サンフランシスコ市内の高級住宅街であるプレシディオ・ハイツ地区において、第四の事件が発生した。被害者は、サンフランシスコのイエロー・キャブ社に勤務していた29歳のタクシー運転手、ポール・スタインである。本事件が提示した最大の構造的変化は、発生場所の遷移にある。過去の第一、第二の事件がヴァレーホ市警の管轄下、第三の事件がナパ郡保安官事務所の管轄下という郊外の広大な野外で発生していたのに対し、本事件はサンフランシスコ市警の管轄地域である大都市中心部の住宅街で敢行された。管轄警察組織の変更と都市部への移動は、捜査網を分散させ混乱させる意図を含んでいた。

犯人はサンフランシスコ中心部の繁華街であるシアター・ディストリクト付近でスタインの運転するタクシーに乗車した。この乗車事実はタクシー会社の無線交信記録および乗車伝票によって裏付けられている。当初、犯人が指定した目的地はワシントン通りとメープル通りの交差点であった。しかし、目的地付近に到達した際、犯人はさらに1ブロック先となるワシントン通りとチェリー通りの交差点へと指示を変更した。犯行現場となったチェリー通り北西角は、街路樹の巨大な影によって街灯の光線が遮られる暗がりであり、北側には即座に逃走可能なプレシディオ軍事留保地の森林が広がっていた。犯人は光量と退路を考慮し、意図的にこの暗がりへと車両を誘導した。

タクシーがチェリー通りの指定位置に停車した直後、犯人は所持していた9ミリ自動拳銃を取り出し、運転席にいたスタインの後頭部(右耳後方)に向けて至近距離から発砲した。9ミリ弾による中枢神経系の急射は即死をもたらし、スタインの身体は助手席側へ倒れ込んだ。弾頭の運動エネルギーと貫通挙動により、血液と組織の大部分は前方および助手席側へと流出し、車内には大量の出血が生じた。犯人は後方から射撃位置を維持することで自身への直接的な返り血の飛散を最小限に抑え、手作業による確実な殺害を完了させた。

射殺後、犯人は逃走に移ることなく車内に留まり、スタインのポケットから財布と車の鍵を奪い取った。続いて犯人は腰に持っていた大型のナイフを取り出し、大量の血液を含んで濡れていたスタインの長袖シャツの背中部分を大きな長方形の形状に注意深く切断して持ち去った。手元や袖口へ血液が付着するリスクを冒しながら行われたこの特殊な切り取り作業は、金品奪取を目的とした通常の強盗致死事件とは一線を画す、本事件固有の極めて異質な現場行動であった。

目撃者と警察の致命的な失策

白人ティーンエイジャーによる目撃

犯行の一連の挙動は、現場交差点の真向かいに位置する住宅の2階窓から、3人の白人ティーンエイジャーによってリアルタイムで目撃されていた。彼らは街灯の影と車内の照明下で犯人が車内を物色し、シャツを切断し、落ち着いた足取りで北側のプレシディオ公園方向へ徒歩で離脱する過程を正確に観察し、直ちにサンフランシスコ市警へ通報を入れた。事件後、警察はこの目撃者らの詳細な証言に基づき、短い茶髪に太いフレームの眼鏡をかけた白人男性のモンタージュ写真を作成し、全米に公開することとなった。

無線の誤伝達(人種違い)

目撃者からの即時の通報を受け、サンフランシスコ市警の無線司令室は周辺を巡回中のパトカーへ容疑者情報を発令した。しかし、司令員の伝達ミスにより、手配対象の人種が白人ではなく黒人男性と誤って無線送信された。1970年代初頭の米国社会には依然として強い人種的偏見と差別意識が根強く残存しており、捜査員らの認知バイアスは黒人容疑者の捜索へと極端に傾斜した。この無線の誤伝達は、現場付近にいた真犯人の捜索において決定的な盲点を作り出す結果となった。

警察官との遭遇

現場から2ブロック離れた路上を徒歩で移動していた犯人は、パトカーで現場へ急行中であったフォーク巡査らの車両とすれ違った。巡査らは暗い上着を着て歩く白人男性に声をかけ接触したが、無線で伝達された「黒人男性」という先入観に捕らわれていたため、この男を容疑者から除外した。フォーク巡査自身、この遭遇の事実が自身の致命的な見落としであることを認識し、事件発生から約1ヶ月間にわたりこの接触の事実を公式記録から隠蔽していた。

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