「ゾディアック事件」解体新書File12

Japenese

カリフォルニアにおけるベトナム帰還兵の動向

カリフォルニア州はベトナム帰還兵の最大の流入および復員拠点であり、戦地から戻った多くの兵士が同州に定住した。彼らの多くは退役軍人優先雇用制度や軍での経験を活かし、警察官をはじめとする治安維持組織や公的社会組織へと組み込まれていった。 ベトナム戦争における米軍の本格的な地上部隊派遣は1965年から始まった。それに伴い、徴兵および志願によって派兵された兵士の1年間の従軍期間が終了し、本格的な復員および帰還が始まったのは1966年から1967年頃にかけてであった。1968年1月のテト攻勢以降、現地での戦闘が泥沼化し派兵規模がピークに達するにつれ、帰還兵の数は急増し、1968年から1970年にかけて復員の最大波を迎えた。 カリフォルニア州に帰還兵が集中した背景には、地理的および軍事インフラ上の理由が存在する。太平洋戦線への主要な出撃拠点および復員港湾であったオークランド海軍基地、トレジャー・アイランド海軍施設、サンディエゴ海軍基地、ならびにトラビス空軍基地など、米軍の主要施設の大半がカリフォルニア州沿岸部に位置していた。除隊手続きをこれらの基地で終えた兵士の多くは、気候が温暖で経済的雇用機会の多かった同州へそのまま留まるか、他州から移住する選択をとった。

帰還兵の就職先としての「警察官」

帰還兵が警察官を目指し、また警察組織側も彼らを積極的に採用した背景には、明確な構造的および時代的要因が存在する。第一に、地方自治体や警察機関の採用試験において退役軍人優遇措置が広く適用された点が挙げられる。復員兵には試験点数の加算や優先採用枠が与えられ、公務員への転職が制度的に支援されていた。 第二に、戦場での実戦経験と装備の取扱技術が即戦力として評価された。1960年代後半のカリフォルニア州では、反戦運動の激化、ヒッピー・カルチャーの広がり、および違法薬物の蔓延に伴い都市部の治安が急速に悪化していた。これに対し、武器の扱いに精通し、厳格な階級制度や上官の命令系統に従う訓練を受け、高ストレス下での行動経験を持つ帰還兵は、治安当局にとってきわめて都合の良い人材であった。 さらに、1968年に成立した総合犯罪取締・治安維持法をはじめとする連邦政府の補助金制度により、地方警察の予算と人員枠が大幅に拡充された。資金を得たヴァレーホ市警、サンフランシスコ市警、オークランド市警などの沿岸部警察機関は、大量に復員してくる若年層の退役軍人を精力的に採用し、前線の警察官として路上へ配置した。

時代の波:社会的反発、PTSD、治安悪化の相乗効果

第二次世界大戦の帰還兵とは異なり、ベトナム帰還兵は激化する反戦運動のただ中へと戻ることとなった。特にサンフランシスコやバークレーをはじめとするカリフォルニア州の都市部では、反戦派市民から冷淡な視線や蔑視に晒され、社会的な孤立を深めた。また、当時は心理的トラウマに対する医学的理解が乏しく、多くの兵士が未診断のまま重度の精神的ダメージを抱えていた。戦場での警戒心理や暴力への閾値の低さを保持したまま警察官として過酷な街頭業務に投入された結果、治安悪化の現場において過剰な心理的摩擦や精神的摩耗を引き起こす要因となった。

ゾディアック像への収斂

ゾディアックが第2通目以降の手紙の冒頭に必ず配した標語、”This is the Zodiac speaking.”(「こちらゾディアックである」)という定型句は、一般的な犯罪者の手紙に見られる感情的な自白や声明文とは一線を画しており、軍用無線や作戦通信における「呼び出しプロトコル」そのものの構造を保持している。ゾディアックが使用した構文は、無線機を取った兵士や通信士が、雑音の混じる回線上で自らの身元およびコールサインを確定させるために訓練される標準的な軍隊式定型フレーズに合致する。 また、「ゾディアック」という名称自体にも軍事的な背景が投影されている。黄道十二宮を意味する一般的な語義の裏で、当時のベトナム戦争期において米軍および特殊部隊(海兵隊強襲偵察用部隊や海軍SEALs)が水陸両用作戦や潜入任務で使用していた軍用高速インフレータブルボートの代名詞は「Zodiac(ゾディアック艇)」であった。彼が使用した記号体系、言葉の選択、および自己同定の表現には、ベトナム戦争期の米軍通信および軍事運用における行動習慣が色濃く残されている。

ゾディアックと名乗る人物の手紙や行動様式を分析すると、ベトナム戦争の帰還兵という経歴が随所に散見される。軍事的な無線呼び出し手順に酷似した定型句の使用、軍用ボートの名称との一致、さらには米軍の野外手引書(FM)に準拠した手動暗号構築技術の適用に至るまで、彼が示した要素の多くは米軍における通信教育および実戦環境での経験と整合する。 1960年代後半のカリフォルニア州は、大量のベトナム帰還兵が復員し、その多くが治安悪化に対処する警察官として組織に流入した時期であった。通信マニュアルの知識を習得し、軍隊式の思考行動パターンを維持したままカリフォルニアの警察組織へ入隊した帰還兵という存在は、ゾディアックが残した数々の技術的・言語的痕跡と過不足なく一致している。

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